街コン最終話

(前回までのあらすじです)

APUの合コンから敵前逃走した私は街コンで出会った謎の男、まっちゃんから謎の飲み会に誘われました。




(今回のお話)

品川駅、午後8時45分、中央改札前の時計前でまっちゃんとの待ち合わせです。

ほぼ見ず知らずの人間とまったく見ず知らずの人間が集まる飲み会に誘われてホイホイついていきます…

港南口から徒歩10分、オフィスビル街のはずれに、その飲み会の会場がありました。
昼間には喫茶店をやっているらしく、外装・内装ともに小洒落ています。

入口で参加費3000円を払い、午後9時、飲み会が始まりました…

まったく知らない人間が集まり、やたらとハイテンションな飲み会が始まりました。聞くところによると、彼らに特に接点はなく、半分ほどは初参加だそうです。

自称ITコンサルの女(私の年齢に人生経験が伴っていないのを敏感に感じ取ったようで、すごい見下してきました、死んでくれ)と少しの間話したあと、まっちゃんに連れられダーピーさん(仮名)になぜか人生相談をすることとなりました。

自称自営業で流通関係の仕事をしているダーピーさんは、この飲み会の主催者でした。
不思議なほど自信に満ちたその姿は、だれが見ても彼が「成功者」ということがわかるほどでした。その話しぶりは人間を魅了する何かを持っていました。私がとにかく今後の人生について方針が決まらず何を努力していいのかわからない旨の質問を投げかけたところ、一冊の本を紹介されました。

「金持ち父さん貧乏父さん」でした。

ダーピーさんはこの本を手にし、ある「ビジネス」を始めたところ、会社員時代の収入の3倍の年収を手にしていると。さらに家族との時間もでき、息子は母親より自分になついていると。この時代において最大のリスクは何も考えずのほほんと会社員をしていること、国が自分と家族を守ってくれると信じることだそうです。

なんて…なんて素晴らしい、これぞ私の求めていた答えでした。

ダーピーさんは急かすように本を買うことをすすめ、1週間後に本を読んだ感想を教えてほしいとまた会う約束をしました。

私は興奮気味に帰り道にマケプレで金持ち父さんを注文し、本日のお礼メールまで書きました。

本自体は喫茶店で5時間かけ一気に読み終わり、私の中でIクワドラントへの情熱がメラメラと燃え盛っていました。(詳しくは本を読んでください)




1週間後、品川駅、午後9時50分、まっちゃんと改札口で待ち合わせたのち、プリンスホテル付近の東南アジア風喫茶店でダーピーさん(仮名)と再会しました。

私は金持ち父さんを読んだ感想を熱っぽく話し、いかにEクワドラントにいることが不毛でリスクテイキングであるか、そしてBクワドラントを経てIクワドラントに至るにはどうすればいいのか(詳しくは金持ち父さんを読んでください)ダーピーさんに相談しました。

ダーピーさんはまず自分のメンター(Iクワドラントで成功している人間)を決め、とにかくどんなことでも、タワシを「売る」ことでさえメンターの言うとおりにすることが大切だとのことでした。なぜならば成功している人間のメソッドをそのままためし、それがダメなら努力不足、もっと努力すれば彼らになれる、それだけのこと。とにかくまずは飛び込むこと、それも「ビジネス」の内容を知ってから飛び込むのではだめ、やると決めてから「ビジネス」の全様を知ることが大切とのことでした。

私が求めていたものは「コレ」でした。



まじっすかダーピーさん!!ところでダーピーさんは何をやっているんですか?

それは今は教えられない、話すととても長くなるからね。それよりも星井君はもうメンターは決めたかい?やると決めたら絶対にやりきることだよ。

そうっすね、ところでダーピーさんはどんな感じのことやっているんですか!?

何度も言わせないでくれ、それを今話したところで何になるんだい?話してもいいけど長くなるよ?それは今日じゃだめだ。やると決めた人間にしか話さない、なぜならそうじゃない人間に話しても時間の無駄だからね。
ちなみに僕は今では「配当金」だけで普通のサラリーマンの年収の倍はもらってるよ?

…おかしい。

ここにきて「ビジネス」について一切語ろうとしないダーピーさんに疑念を懐きはじめました。なぜこいつは何も語ろうとしない、そしてまっちゃんはなぜ一言も話さない…なぜ…「流通」…「金持ち父さん」…「タワシ」…


ここから導き出される答え…それは…「マルチ」…

確実に…マルチ…「ビジネス」…



本日は貴重なお話ありがとうございました、あとまっちゃんに話があるので私たちはこれで失礼します。

まっちゃんを駅ビルの喫茶店に放り込みました。

そうか、俺に話しかけたのはこれが目的か。ん?年齢に人生経験が伴ってなさそうだったから簡単にだませるとでも思ったか?全部最初からお見通しなんだが?(ウソ)

ま「違いますよ!僕は純粋にダーピーさんのビジネスを広めたくて…」

いくら買ったんだ?ん?いくら損した?

ま「今は損していますが絶対に取り返せます。僕はダーピーさんの言うことを疑いませんし、ダーピーさんは間違っていません。損をしている、という考えには賛成できませんが今星井さんから見てマイナスになっているのは僕の努力不足だからです。」

あのオヤジにいいように使われてるな、お前。ところで自分の知り合いにはそのすばらしいビジネスを紹介しているのか?

ま「いえ、していませんが。世の中には勘違いしている人も多いので…」

それはな、お前の心の奥底に人をだましているって思いがあるからじゃないのか?無関係の人間になら売りつけて損してもいいって思っているからじゃないのか。

ま「だましているなんて思っていません、ダーピーさんは実際この方法で稼いでいます、僕の努力不足なんです。」

完全に洗脳されていました。

彼との戦いは3時間に及びましたが、一向に屈服させることが出来ませんでした。
いや、完全に私の負けと言っても過言ではないでしょう。

終電に乗り込むと、私の視界はふいに曇りました。
人間は信用できない、社会はクソ…俺は救われない…

今でも「金持ち父さんと貧乏父さん」は大切に私の本棚に飾ってあります。

(おわり)


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